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<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
1. 焼印(2)
そのフランス語の先生は春に学校を辞めました。申し訳ないと思うけれど、彼女はそのほうが良いとわかっていたのでしょう。わたしはお金持ちでしたから友達を作るのは難しくなかったし、とても人気がありました。でも話ができた人をひとりも思い出せません。休日はヨーロッパで過ごすほうがマシでした。
上等な服を着る余裕もあったので、そうしていました。髪型も思いどおり、いっけん無造作なようでいちばん魅力的に見えるようにしていました。小さなリボン、アクセサリーの色、上品な色合いの高級な口紅、スカートの縫い目、高級な革の外国製のベルトと調和の取れた靴、安物はありません。期限の過ぎたレポートの提出日延長をお願いするときは、すり減ったローファー、ブルージーンズにスウェットシャツ、髪にリボンを身に着けました。そんなときには、タイプライターのインクのしみを頬と指にちょっと付けて。いくらでも期限を延長しもらえました。もちろん、自分でタイプを打つことはなかったけれど。でも、買うより良くできるのが嬉しくて、いつもレポートは自分で書きました。ある午後の日に提出期限を延期してくれた教師は、その夜にリンカーン・センターでの室内楽演奏会で、わたしのちょっとうしろに座っていたのに、わたしとわかりませんでした。休憩時間に一度いぶかしげにこっちを見て、話しかけようとしました。彼を冷ややかに一瞥すると、赤い顔をそむけてしまいました。私は黒い服を着て、髪をアップに結い上げ、真珠をつけて、白い手袋をはめていました。先生にはわたしをもう一度見る勇気はありませんでした。
いつ気が付いたかわかりません。ニューヨークの通りか、ロンドンの歩道か、パリのカフェだったかもしれません。リヴィエラで日光浴をしていたときかもしれません。大学のキャンパスでだったかもしれません。どこかで、知らないうち気づいて習得したのでしょう。
裕福で美しい、そのつもりで振舞ってきました。他の人より恵まれていると思っていたし、実際そのとおりでしたから、態度に出すこともためらいませんでした。おもしろいことに、個人的な感情はどうあれほとんどの人は、怒るわけでもなく少しわたしを怖がっているような印象でした。みんなわたしが見せかけた大げさな価値をそのまま受け入れたのです。わたしを喜ばせようとするのです。怒ったり不機嫌なふりをしてふくれたり、そのあとほほえんで許してみせたりしておもしろがっていました。みんなそれで喜んでいました。
どんなに軽蔑したか。どんなに利用したか!退屈な人たち。わたしはお金持ちで、幸運で美しいのに、あの人たちには何もないんだもの。
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