<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
8. ローラの北での出来事(14)
それからわたしは苛立ちを感じながらも洗濯に戻り、他の娘たちもそうしました。でも、そのとき何かが違っていると感じました。娘たちが、流れの速い小川のほとりで太陽の日差しを浴び、服を叩きつけたりすすいだりしながら、陽気におしゃべりしあうのを聞いていました。そしてわたし、エレノア・ブリントンも一緒に働いています。冷たい水に手を入れ、服を浸し、持ち上げて絞り、石に叩きつけて、また浸す、シンプルで昔ながらのリズムで。何が違うの?わたしはカミスクを着て、囚われの女にふさわしく、革ひもで、縛りの革で留めていて、ただそれだけです。彼女たちのようにひざまずく。彼女たちのように働く。ここにはペントハウスも、マセラティも、財産も、高層ビルも、エンジンがうなりを上げる轟音も、飛行機の金属音も、息が詰まるもやの曇りもありません。あるのはただ娘たちの笑い声、小川のせせらぎ、働くこと、青い空に白い雲、風にそよぐ草、清い空気、そしてどこかでは、小さくて角のある紫のフクロウのようなギムの泣き声。
しばらく仕事の手を休め、深呼吸をしました。もう怒っていません。二重に輪にした、ぴったりと体に沿う、右の腰の上で結ばれた、縛りの革を感じました。こういうわたしみたいな女にとっての、縛りの革の意味が解りました。そしてわたしは縛りの革をしています。
男がわたしを見たら、自分の物にすると決めるような、そういう女です。男がわたしに出会ったら、あまりに魅力的で、すべてを所有すること以上の満足がないような、そういう女です。あまりに美しくて、甘んじてわたしに絶対的な権力を持つにほかなりません。わたしは心の中で笑いました。わたしは虜にするのに充分な関心を引くものと、美しさがあるのに気付かされたの!
そういう男たちって立派ね!と思いました。
わたしは伸びをしました。体がカミスクの荒い生地を贅沢に拒んでいるのを感じました。
どんな男がわたしからカミスクを剥ぎ取るのだろう。
「働け」 と衛兵が言いました。
わたしは仕事に戻りました。エレノア・ブリントンは一人の奴隷娘。みなに混じり、美しい遥か遠くの世界の急流の小川で、原始的な洗い方でご主人様の服を洗っています。
平らな岩の上にひざまずき、服をたたきつけたりすすいだりしています。きれいな空気と、頭の上には鮮やかな青い空。小川のせせらぎを聞きました。上を向いて空を見ました。ぬれた洗濯物を置き、岩の上にいきなり立ち上がり、手を空に振り上げて笑いました。娘たちは当惑して見つめています。
「そうよ!そうですとも!わたしは女なの!」
小川の急流の前で太陽の光を浴び、岩の上に立ちました。腕を上げて、目を閉じて。
そして青い空に向かって目を開けました。
「イエス!イエス!イエス!」
ゴルの空いっぱいに、そしてすべての星に、すべての世界に向かって叫びました。
「わたしはご主人様が欲しい!わたしはご主人様が欲しいの!」
「仕事にもどれ」 衛兵が言いました。
鞭でぶたれないようにすばやくまた岩の上にひざまずき、洗濯に戻りました。
わたしは笑いました。
みんなも笑いました。
幸せです。
ユートは洗濯物を平らな岩に叩いて冷たい水ですすぎながら歌い始めました。
幸せです。みんなと一緒。
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訳者の言い訳と解説
前にも書いたかもしれないけど、3回連呼は英語のリズムであって、
日本語に翻訳するときは、「イエス!イエス!イエス!」 みたいなのは避けるという
ルールがあります。
アメリカナイズされ、英米のドラマや映画を見て育ったわたしの世代では、
3回連呼のリズムにあまり違和感は感じないんですけど、みなさんはいかがなもんでしょ。
でも箇所によって変化をつけたりそのまま訳したりしてるんだけどね。
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