2011/04/09

ゴルの虜囚 101 【CAPTIVE OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

8. ローラの北での出来事(19)

芸人は後ろに下がりました。

おとずれた静寂。

獣は後ろ足で立ち上がり、眠そうにわたしたちを見つめていました。すると突然、獣がおぞましく、恐ろしいほどに咆えて柵に向かって飛びついてきました。爪の生えた大きな手で掴みかかってきて、牙の生えた巨大な口腔には白い歯があり、咆えたりうなったりしています。柵にまでとどいてぶつかり、噛み付いて、鎖が鉄の柵に当たり、爪をわたしたちのほうにかいています。わたしたちは恐ろしくて、叫びながら後ずさり、逃げようとしましたが、他の人が邪魔でした。わたしは足がどうしようもなくガクガクして、足がもつれて一緒につながれている娘たちの中に突っ込みました。そしてその中で、どうすることもできなくなりました。わたしは、叫び声を上げ続けました。そうしているうちに、わたしたちは衛兵たちもターゴも笑っているのに気が付き始めました。ターゴたちには知らされていたのです。これはパフォーマンスの一部で、わたしたちのお気に入りにはなりえないものです。わたしたちの怯え様や混乱ぶりは、なんと滑稽なことか!衛兵たちやターゴ、そして芸人にとってはさぞかし滑稽でしょう。みっともない間抜けぶり、虫のごとく蠢くパニックを引き起こした群れ、手も足も出ずに怖がり、叫び、もつれ合う奴隷娘たち。怪物はもう芸人の脇におとなしく座っていて、口の周りを舐めながら眠りかけていました。目はどこを見るともなくうつろにまばたいていました。奴隷女の群れは、少しずつ体が離れていきました。わたしたちはみんな恥をかかされて恥ずかしい思いをさせられ、とっても馬鹿な振る舞いをして、わたしたちが逃げるのはとっても惨めで浅ましかったんだなと思いました。でもわたしたちはまだ怯えていました。何人かは丈夫な丸太の宿舎の小さなドアのところに立ち、駆け込む準備をしています。何人かは柵の反対側に逃げていました。ほとんどは柵の近くにいましたが、数フィート離れていました。わたしは頭にきて、でも怖くて、自分のカミスクをそれがドレスかのように、撫でてしわを伸ばしました。男たちが笑っているのが目に入りました。自分たちは利口だと思ってるんでしょ!あいつらはけだもの、あいつらみんな!あの人たちは体が大きくて、槍と剣を携えた勇敢な男。そしてもし獣が襲ってきてもただ殺せば良い。それなのにわたしたち、ただの女は子供のように泣いて逃げまどう。わたしは男たちに目をやりました。憎い。自分たちのことをたいそう賢くて、勇敢で、偉大で、女たちとは違うと思っているんでしょ!でもわたしは顔を赤らめました。カミスクは体を全部覆ってはいません。わたしたちは泣き叫ぶ子供のように逃げ惑いました。女のように!わたしたちは女なの!柵から離れているというのに、わたしはまだ獣を恐れていました。あいつらの望みどおり!この見せしめはどうでも良いけれど、絶対に忘れない。よくわかりました。自分たちは違うんだってことが!衛兵が持たせてくれた槍がどんなだったか、そしてそれがとっても重くて、数フィートしか飛ばせなかったことを思い起こしました。衛兵が槍をわたしから受け取り、木の的に投げつけると、100フィートも先に深々と刺さったのでした。槍を取りに行かされましたが、木から抜けませんでした。わたしは盾を持ち上げるのすら、やっと。地球では男の力を重要視していませんでした。強さは重要ではないと思えて、些細で見当違いに感じていました。でもゴルでは力は重要なのです。とても重要なのです。しかも女は男より弱くて、ずっとずっと弱くて、だからこんな世界では、男が望むのならわたしたちは男のもの。ある夜、男が他の男たちと会話をしている間、わたしは奴隷娘としてひざまずき、彼の革の小物やサンダルを磨いていていました。磨き終わった後もそのままひざまずいて男を待ちました。男は会話が終わると立ち上がり、ありがとうの一言もなくサンダルや小物を身につけ、収容所に先に戻れという身振りをしました。そして収容所の門のかんぬきを開けました。わたしは入り口で振り返って言いました。「わたしだって、人間なのに」

男は微笑み、「違う。お前はカジュラだ。動物だ。家畜だよ。金で買えるかわいい動物でしかないんだ」 
そう言ってわたしの体の向きを変えさせ、叩いて急かすのでした。門は閉められ、鍵がかけられました。

わたしは彼に触れようと柵越しに手を伸ばしました。

男は戻ってきて、柵越しにわたしの手をとり抱きしめました。

「いつになったら、わたしを使ってくれるのですか」

「おまえはホワイト・シルクだ」 と男は言って背を向けました。

わたしは一人寂しく柵にもたれて哀しみの声を上げました。なんとも言えない感情でいっぱいでした。空には三つの月が輝いています。柵を揺さぶっても、わたしは閉じ込められたまま。男は荷車のほうに向かい、闇に消えてゆきました。柵を握って頬を押し付け、涙を流しました。

気がつくと、ユートもみんなも笑い合っていました。あの動物が襲ってきたのは面白すぎる冗談だったのです。道化師のパフォーマンスの愉快なオチ。わたしは笑えなかったけれど、笑顔を作りました。娘たちは道化師に手を振り、道化師はにこやかにお辞儀を返してから、鎖につないだあの変な動物を連れて帰ってゆきました。

0 コメント:

 

About Me