ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
7. 他の女たちと、北方へ連れて行かれる(15)
あるときインジと話していて、ユートはいつも文法的間違いをしているのに気がつきました。
「そうね。あの人は革職人だから」と、インジは言いました。
自分はユートより勝っていると思いました。
わたしはそんな間違いは犯しません。わたしはエレノア・ブリントンなんだから。
「わたしは上層階級のゴル語を話すの」と、わたしはインジに言いました。
「でもあなたは野蛮人でしょ」
一瞬インジが憎たらしいと思いました。
インジは書記だけれど、鎖につながれた奴隷娘のままで、ご主人様に従わなければならない。その頃にはわたし、エレノア・ブリントンは安全な地球の、居心地の良いペントハウスにまたいるのだと自分に言い聞かせました。ユートも奴隷のままよ!おばかさんで間抜けなユートは、自分の国の言葉さえちゃんと話せないもの! かわいいからって、男のおもちゃになるくらいしか意味がないじゃない。ユートは生まれついての奴隷よ!鎖につながれるのがお似合いね。インジだって傲慢すぎる!あの人たちはゴルにいて支配される身分だけれど、わたしは、エレノア・ブリントンはお金持ちで賢くて、安全に守られて、遠い世界のペントハウスで笑っているの。良い気味!
「エリ=ノ=アどうして笑うの?」と、ユートが見上げてたずねてきました。
「エレノアだってば」と正しました。
「エレノア」と、ユートが微笑みます。
「なんでもないの」
衛兵の一人が外で叫んでいるのが聞こえました。遠くでボスクのベルが鳴っているのも。
「高貴な方のご一行様だ!」 衛兵の一人が叫びました。
「従者を従えた自由な女だ!」 他の衛兵が叫びました。
ターゴが「奴隷たち、表に出ろ!」と声を張り上げています。
そのときまで、ゴルの自由な女を見たことがなかったので、わくわくしました。
衛兵があわただしく足首をつなぐ棒の一方を外しました。わたしたちは一人ずつ棒に沿って、出口の開いた荷車の後ろに歩きました。当然わたしの足首も、輪が二つ付いた鎖で他の娘たちとつながれたままです。
荷車の外に出ると、それぞれののどを一列に、紐で数珠繋ぎにされました。首を伸ばして見ると、荷車のわきに一列に並ばされていました。もう一台の荷車の娘たちはわたしたちより先で、ラナもそっちにいました。彼女たちは既に草の上にひざまずいて見ていました。
巨大できれいに毛づくろいされた四頭のボスクに引かれている、大きくて平らな荷車が見えました。
荷車の上には、フリンジの付いたシルクの天蓋の中で、立派な椅子に女が一人座っていました。
多分兵士が40人、槍を持って片側20人ずつで荷車の脇を固めていました。
ボスクの引き具の鈴が鳴るのが、今ははっきり聞こえます。一団が近づいてきました。ターゴは外に出ていて、青と黄色のローブをひるがえし、途中まで出迎えていました。
「ひざまずけ」
衛兵が言いました。
わたしたちは、展示の鎖につながれてひざまずきました。
ゴルの奴隷は、自由な男や自由な女の前では許しがない限り常にひざまずきます。衛兵に話しかけられるときはもちろん、わたしのご主人様のターゴが近づいてくるときもひざまずくことを教えられました。ちなみに、ゴルの奴隷は自由な男を「マスター」、自由な女を「ミストレス」と呼ばなくてはいけません。
わたしは平らな荷車が近づいてくるのを見ていました。
女は椅子に堂々と座り、まばゆく輝く色とりどりのシルクに包まれていました。彼女がまとっているものは、わたしたち三、四人まとめた以上の価値ではないでしょうか。そしてベールをかぶっていました。
「恐れ多くも自由の女を見たいのか?」 衛兵が尋ねました。
恐れ多いどころか、ぜひそうしたいと思いました。でも荷車が近づいてきたので、脚でこづかれて、他の娘たちと同様に草の上に頭をつけました。
一団の荷車はわたしたちから数フィート向こうに止まりました。
顔を上げる勇気はありませんでした。
不意に自分は自由な女とは違うことを理解しました。ゴルの草原でひざまずき、生まれて初めて、雷に打たれるようにショッキングな社会制度がわかりました。突然理解したのです。わたしの地位や富がオーラを創り、劣った人たちにわたしを尊敬させ、敬わせ、機嫌を取らせ、それに失敗するのを恐れさせるのだと。わたしはなんと自然に他の人と差別化を図っていたのでしょう。わたしのほうがずっと良い!優れている!ただ、今は自分の世界にいない。
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訳者の言い訳と解説
ついこの間、寂しくて寂しくてユートと友達になりたいとか言ってた気がするんですけど、
相変わらずエレノアさんは嫌な女全開です(笑)
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