2011/02/06

ゴルの虜囚 86 【CAPTIVE OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

8. ローラの北での出来事(4)

わたしは柵越しに外を眺めました。もうかなりはっきりとローラの木造の建物が見えます。平底船を引く2頭のタルラリオンの背中に、水が濡れ光っていました。

「そんなに悲しまないで、エリ=ノ=ア。首輪をつけてご主人様を持てば、もっと幸せになれるから」

わたしはユートを睨みつけました。

「わたしは絶対に首輪なんかつけないし、ご主人様もいらない」

「あなたは首輪もご主人様も望んでる」 と、ユートが微笑んで言いました。

かわいそうなくらいのバカね!わたしは自由になって、地球に帰るの!またお金持ちでパワフルになるの!使用人も雇うし、別のマセラティだって買うんだから!

「ご主人様がいて幸せだったことがあるわけ?」
自分を抑え、辛辣に尋ねました。

「うん、あるよ!」 嬉しそうに言うユートの目が輝いています。

わたしはうんざりしてユートを見ました。
「それで?」

ユートは目を伏せました。「精一杯頑張ったんだけど、売られちゃった」

わたしは顔を背け、柵の外に目を向けました。今や霧は消え、朝の太陽が川面で輝いています。

「女なら誰だって自分の中に、自由な伴侶と奴隷娘がいるの。自由な伴侶は伴侶を捜し求め、奴隷娘はご主人様を捜し求めるの」と、ユートが言いました。

「ばかばかしい」

「あなた女じゃないの?」

「女に決まってるでしょ」

「それなら、あなたの中の奴隷娘はご主人様を求めてるよ」

「バカじゃないの。ふざけないで!」わたしは激怒しました。

「あなたは女。征服するのはどんな男の人だろうね」

「わたしを征服できる男なんていない!」

「夢の中で、あなたに触れ、縛って連れ去り、要塞に連れてって、言いつけに従わせるその人は、どんな男の人?」

ペントハウスを出て駐車場へ急いでいるとき、男が目をそらさずにわたしを見ていて、逃げて、印をつけられて、怖くて、手も足も出なくて、生まれて初めて、根本的に自分がか弱い女だと感じたことを思い出しました。バンガローで太もものしるしとのどの首輪を調べていたとき、一瞬、どうしようもなく所有され、虜囚となり、誰かの持ち物になった気がしたことも思い出しました。こんな首輪をされ、わたしのような印を付けられ、裸で野蛮人の腕に抱かれる、心をかすめた幻想を思い出しました。恐ろしくて身震いしていました。今までこんな気持ちになったことはありません。男の感触に興味を持ったことを思い出しました。―――ご主人様かもしれない?この一瞬浮かんだ感情を、心から追い払うことが出来ませんでした。荷車で過ごす夜は特に、時々何度か心に浮かんできていました。一度はそのことで孤独で落ち着かない気持ちになり、涙を流しました。二度、他の娘が荷車の中で泣いている声を聞いたことがあります。一度はユートでした。

「そんな夢は見ない」 とわたしはユートに言いました。

「まぁ」

「エリ=ノ=アは不感症ね」 とラナが言いました。

わたしは涙目でラナを睨みつけました。

「ううん、エリ=ノ=アは目覚めていないだけ」 とユートが言いました。

ラナは檻を見回して、「エリ=ノ=アはご主人様が欲しい」と言いました。

「違う!絶対に違う!」 わたしは涙を流して叫びました。

ユート以外の娘たちは、インジまで一緒になって、節をつけて「エリ=ノ=アはご主人様が欲しい!エリ=ノ=アはご主人様が欲しい!」とわめいて笑い始め、わたしを馬鹿にしました。

「違うってば!」

わたしは叫んで向こうを向き、柵に顔を押し付けました。

「エリ=ノ=アをいじめないで」ユートはわたしに腕を回し、娘たちをたしなめました。

こいつらが憎い。ユートさえも憎い。こいつらは奴隷なのに。奴隷のくせに!

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