2011/02/06

ゴルの虜囚 87 【CAPTIVE OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

8. ローラの北での出来事(5)


「見て!」 インジが前方を指差しました。

遠い空の向こう、森の境界線沿いにローラの東から、40人くらいのタルン戦士が、巨大で獰猛で鷹のようなゴルの乗り物の鳥、風の兄弟と呼ばれるタルンにまたがっていました。大きな鳥の背中に乗った彼らは小さく見えました。槍を持ってかぶとをかぶっています。鞍の左側に盾を吊るしています。そういう鳥のことも、そういう男のことも、もちろん聞いています。南のほうで、錯乱した迷える不思議な野蛮人をターゴが鎖につなぐ前に、ターゴを襲ったような人たちです。わたしが見るのは初めてのことでした。

娘たちは怖がり、柵を押して泣き喚き指差しました。

タルン戦士たちは遥か遠くにいてさえ、わたしに恐怖を感じさせました。あんな翼のある怪物を征服できるのは、どんな男だろうと思いました。恐ろしくて、檻の中で尻込みしました。

ターゴは船の前に来て、早朝の日の光から目を遮りながら上のほうを見ました。ターゴは後ろに立っていた片目の衛兵に話しかけました。

「スキャーンのホーコンだ」

片目の衛兵はうなずきました。

ターゴは嬉しそうにしています。

タルン戦士はもう、ローラの影に大きな鳥を着陸していました。

「ホーコンの領地はローラの外、北だ」 とターゴが言いました。

それからターゴと片目の衛兵は、船員が大きな舵取りオールを操っている船尾に戻りました。平底船の乗組員は6人いて、2頭のタルラリオンを指揮する男、二人の操舵手、船長、船の上でのお世話や係留装置つけたり外したりする二人の乗組員です。奴隷の檻の鍵を閉めたのは、世話係のうちの一人でした。

石材や材木、魚の樽や塩が波止場に積んであります。波止場の後ろには、倉庫へ導く長い板のスロープがありました。倉庫はすべすべのがっしりした木材で建てられているようで、汚れていました。ほとんど赤茶けています。屋根は板葺きで黒く塗られています。大きな両開きのドアには、さまざまな色で塗られた彫刻や木工品で飾り付けされていました。大きなドアをくぐると広い中心部があって、もっとスロープがつながっていました。倉庫の中にはいろいろなものがあるようです。スロープの上にも、波止場のあたりにも、男たちが動き回っていました。色々な平底船が荷物を積んだり降ろしたりしています。この地域には村があるだけで、ローラが唯一の拓けた都市です。ローリウス河口の自由港リディウスは、下流に200パサング以上です。新入りは、ゴルの5つの上層階級のひとつである建築士で、リディウスのリーナだった者です。彼女は荷車の中に横たえられ、監禁されたままでした。ターゴはローラではフードもさるぐつわも外さないだろうと思います。どこだかわからせてしまうかもしれませんから。わたしはほくそ笑みました。彼女はターゴから逃げられないんだわ。わたしは激しく柵を揺さぶりました。

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ゴルの虜囚 86 【CAPTIVE OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

8. ローラの北での出来事(4)

わたしは柵越しに外を眺めました。もうかなりはっきりとローラの木造の建物が見えます。平底船を引く2頭のタルラリオンの背中に、水が濡れ光っていました。

「そんなに悲しまないで、エリ=ノ=ア。首輪をつけてご主人様を持てば、もっと幸せになれるから」

わたしはユートを睨みつけました。

「わたしは絶対に首輪なんかつけないし、ご主人様もいらない」

「あなたは首輪もご主人様も望んでる」 と、ユートが微笑んで言いました。

かわいそうなくらいのバカね!わたしは自由になって、地球に帰るの!またお金持ちでパワフルになるの!使用人も雇うし、別のマセラティだって買うんだから!

「ご主人様がいて幸せだったことがあるわけ?」
自分を抑え、辛辣に尋ねました。

「うん、あるよ!」 嬉しそうに言うユートの目が輝いています。

わたしはうんざりしてユートを見ました。
「それで?」

ユートは目を伏せました。「精一杯頑張ったんだけど、売られちゃった」

わたしは顔を背け、柵の外に目を向けました。今や霧は消え、朝の太陽が川面で輝いています。

「女なら誰だって自分の中に、自由な伴侶と奴隷娘がいるの。自由な伴侶は伴侶を捜し求め、奴隷娘はご主人様を捜し求めるの」と、ユートが言いました。

「ばかばかしい」

「あなた女じゃないの?」

「女に決まってるでしょ」

「それなら、あなたの中の奴隷娘はご主人様を求めてるよ」

「バカじゃないの。ふざけないで!」わたしは激怒しました。

「あなたは女。征服するのはどんな男の人だろうね」

「わたしを征服できる男なんていない!」

「夢の中で、あなたに触れ、縛って連れ去り、要塞に連れてって、言いつけに従わせるその人は、どんな男の人?」

ペントハウスを出て駐車場へ急いでいるとき、男が目をそらさずにわたしを見ていて、逃げて、印をつけられて、怖くて、手も足も出なくて、生まれて初めて、根本的に自分がか弱い女だと感じたことを思い出しました。バンガローで太もものしるしとのどの首輪を調べていたとき、一瞬、どうしようもなく所有され、虜囚となり、誰かの持ち物になった気がしたことも思い出しました。こんな首輪をされ、わたしのような印を付けられ、裸で野蛮人の腕に抱かれる、心をかすめた幻想を思い出しました。恐ろしくて身震いしていました。今までこんな気持ちになったことはありません。男の感触に興味を持ったことを思い出しました。―――ご主人様かもしれない?この一瞬浮かんだ感情を、心から追い払うことが出来ませんでした。荷車で過ごす夜は特に、時々何度か心に浮かんできていました。一度はそのことで孤独で落ち着かない気持ちになり、涙を流しました。二度、他の娘が荷車の中で泣いている声を聞いたことがあります。一度はユートでした。

「そんな夢は見ない」 とわたしはユートに言いました。

「まぁ」

「エリ=ノ=アは不感症ね」 とラナが言いました。

わたしは涙目でラナを睨みつけました。

「ううん、エリ=ノ=アは目覚めていないだけ」 とユートが言いました。

ラナは檻を見回して、「エリ=ノ=アはご主人様が欲しい」と言いました。

「違う!絶対に違う!」 わたしは涙を流して叫びました。

ユート以外の娘たちは、インジまで一緒になって、節をつけて「エリ=ノ=アはご主人様が欲しい!エリ=ノ=アはご主人様が欲しい!」とわめいて笑い始め、わたしを馬鹿にしました。

「違うってば!」

わたしは叫んで向こうを向き、柵に顔を押し付けました。

「エリ=ノ=アをいじめないで」ユートはわたしに腕を回し、娘たちをたしなめました。

こいつらが憎い。ユートさえも憎い。こいつらは奴隷なのに。奴隷のくせに!

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ゴルの虜囚 85 【CAPTIVE OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

8. ローラの北での出来事(3)

川には他の船の船頭もいました。川を渡る者、ローラに向かう者、立ち去る者。ローラからの人たちは流れのみを利用していました。近づいてくる者たちは、陸タルラリオンに川沿いを一歩一歩引かせていました。陸タルラリオンは川を泳ぐことが出来るものの、大きな川タルラリオンほど効率的ではありません。川の両岸ともローラに上がれますが、北側が好まれます。ローリウスの河口にあるリディウスに戻る引き具を外されたタルラリオンは、普通は北側よりタルラリオンの牽引に使われない南岸の道沿いを行きます。そんな川を上る平底船に、金属のような粗製品や、道具類や生地のようなものの入った、たくさんのかごや箱が見えました。下流に向かうにつれ、魚の樽、塩の樽、石、毛皮の梱を運ぶ他の船も見えて、河口に向かって動いていました。上流に向かう船のいくつかには、殻の奴隷用の檻が見えて、わたしたちが監禁されているのに似ていなくもありません。上流に向かう船で、檻のあるのは一隻だけ見えました。4,5人の裸の男の奴隷が入っています。しょげかえり、ちぢこまっているようでした。なぜか髪を幅広く一列剃られていました。ラナはこれを見ると甲高い声で叫んであざけりました。男たちはこちらを見もせず、ゆっくりとローラに向かっています。

ユートを見ると、
「女に捕らえられた男ってことなの。見て」
ユートは丘の上の、ローラの北の森を指差しました。 
「とっても大きい森があるの。どこまで東に広がっているのか誰も知らないし、北はトルヴァルズランドまで続いているの。中には森の人がいて、みんな無法者の群れだけど、女性の隊もあるし、男性の隊もあるんだよ」

「女?」

「森の娘って呼ぶ人もいるし、女豹族(パンサー・ガール)って呼ぶ人もいるの。槍や矢でしとめた森の豹の歯や皮を身に着けてるから」

わたしはユートを見つめました。

「女だけで森に住んでるの。男を奴隷にしたり、飽きたら売るけど。屈辱を与えるためにあんなふうに男の人の髪を剃るんだよ。それにね、売られた男は女の手に落ちたんだって全世界の人がわかるようにするのが、彼女たちのやり方」

「その女たちは誰なの?どこから来たの?」と、わたしは尋ねました。

「一度は奴隷になった人たちなのは間違いないわね。あとは自由な女。親の決めた結婚が気に入らなかったのかも。自分の都市の女の扱いが気に入らなかったのかもしれないし。そうかもしれないな。多くの都市では、自由な女は男の人の保護者とか、おうちの人の許可がないと、住まいを出られないの」

ユートはわたしを見上げて微笑みました。

「奴隷娘のほうが行き来が自由で、幸せなの。自由な女より」

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ゴルの虜囚 84 【CAPTIVE OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

8. ローラの北での出来事(2)

幅が広くて側壁の低い平底船が、桟橋に向かってバックして来ました。大きな舵取りオールが二つ付いていて、乗組員がいました。船は二匹の、水かきを持つ巨大な川タルラリオンに引かせます。タルラリオンを見るのは初めてでした。怖かったです。うろこがあって、巨大で、長い首をしています。体の大きさの割りに、水の中であってさえ優雅な動きです。1頭が水の中に頭を入れて、すぐに上げてまばたきをすると、暴れる銀色の魚をぎざぎざの歯のついた小さなあごにくわえていました。魚を貪り食うと、小さな頭を振り向かせ、今度はまばたきせずにわたしたちを見つめました。幅の広い平底船の引き具がかけられています。タルラリオンは、引き具の一部になっている二頭の間にぶらさがる革のかごにおさまった船の乗組員に、長い鞭の棒で操縦されます。また、乗組員は華やかなゴルの下品な言葉をわめき散らしてタルラリオンを指揮します。彼は桟橋をぎしぎしいわせていました。

ローリウスを渡る自由市民の運賃はタルスク銀貨一枚ですが、動物はたったのタルン銅貨一枚です。ターゴはタルン銅貨21枚を、わたしと、他の娘たちと、新入りの娘と、ボスク4頭ぶんに支払いました。ローリウス川の丘に着くまでに4人の娘を売っていました。ボスクが荷車から解かれ、平底船の前のほうにつながれました。船の前には、槍を持った衛兵が両脇にいる奴隷用の檻(おり)もあって、平板を渡り檻の中に追いやられました。わたしたちの後ろで、乗組員が重い鉄のドアを閉め、ボルトをすべらせるのが聞こえました。後ろを振り向くと、重そうな南京錠がかけられ、わたしたちは閉じ込められました。

わたしは柵を掴み、ローラへと続く川を見ていました。わたしの後ろで、2台の荷車が船の上に積まれ、鎖でつながれました。回転させられる大きな木の輪の上に据えられました。こうして荷車は船の上に運ばれ、輪を回すと同じ方向に動かせます。広くゆったりと流れる川面の霧が晴れてきて、ここかしこ、ところどころがきらきらと輝いていました。数十ヤード右に、水から魚が飛び出しまた水に消えると、鮮やかにきらめいて広がった輪が残っていました。頭の上ではカモメが2匹鳴いています。

革のかごに乗った乗組員が怒鳴り声を上げ、鞭の棒でタルラリオンの首を打ちました。

ローラには、わたしを合衆国に返してくれる人か、そうできる人に紹介してくれる人がいるはずだわ!

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ゴルの虜囚 83 【CAPTIVE OF GOR】

<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン

8. ローラの北での出来事(1)

わたしたちがローリウス川の丘に着いたのは、翌朝の夜が明けてすぐでした。

霧の立ちこむ寒い日。焼印を押されたばかりの新入りの娘は、フードとさるぐつわをされ、体を縛られています。彼女以外は荷車に敷かれた幌布の間をうごめいていました。わたしの他に何人かが、四角く張られた荷車の横の幌を持ち上げて、朝霧のかかる外をのぞいていました。

魚と川のにおいがします。

霧の中に、あちらこちらへ動き回る男たちや、背の低い木造の小屋が見えました。既に最初の漁から戻る、漁師に違いない人たち。彼らは夜にたいまつと三叉のやすを使い、川面の魚を捕るのです。網を持って水のほうに降りて行く人たち。魚をつるしておく柱が見えます。わたしたちがいる方に進んでくる荷車もありました。袋や縄をかけた薪の束などの荷物を運んぶ男たちも見えました。小さな木造小屋の入り口で、短い茶色のチュニックを着た奴隷娘がこちらを見つめていました。チュニックの切れ目の喉元に、きらりと鉄の首輪が光りました。

突然槍のこじりで荷車の幌布のわたしたちが見ていたところをつかれたので、慌てて幌布を下ろしました。
朝の光の中見回すと、他の娘たちももう起きていました。みんなわくわくしているようです。ローラはわたしにとって始めてのゴルの都市です。ここにはわたしを家に返してくれる人がいるだろうか。荷車の中に鎖でつながれるのはいらいらするなんてものじゃありません。荷車の後ろの垂れ蓋も閉じられているし。幌布はじめじめして、露や霧、早朝の雨で汚れています。自分の名前をわめき散らして助けを求めたい気分を、こぶしを握り締めて我慢しました。

荷車が前に傾いたので、川岸に向かって坂を下りているのがわかりました。そして車輪が泥の中で滑り、左の前輪に車止めして戻しながら、重いブレーキがぎしぎし鳴るのが聞こえました。そのうち徐々にブレーキが効くようになり、荷車はガタガタと揺れながら、滑って前後にスライドして行きました。車輪の下の小石の音が聞こえ、荷車はまた水平になりました。

わたしたちが数分間じっとしていると、ついには川の渡し舟の船長にターゴがうるさく値切っているのが聞こえました。

荷車は木の桟橋に向かい、ボスクが泣き声をあげました。川と魚のにおいが強くなりました。空気は冷たく湿気があり、新鮮です。「奴隷たち、表に出ろ」と聞こえました。

荷車の後ろの垂れ蓋が上げられ、出入り口が後ろのほうに傾きました。

白髪頭の固めの衛兵が足首をつなぐ棒を外しました。

「奴隷たち、表に出ろ」

荷車の後ろに向かうと、足かせが外されました。それから裸で鎖なしで、わたしたちは川の木の桟橋の端に集められました。寒かったです。ふと、水の中に動くものが見えました。大きなとげをうねらせる何かが、桟橋の下からローリウスの入り口に射るような速さで動きました。ちらっと三角形で黒い背びれが見えました。

わたしは悲鳴を上げました。

「リバー・シャークだわ」と、ラナが見て指差し、興奮気味に叫びました。奴隷娘の何人かは目で追いました。ひれが水を切り水面の霧に消えました。

わたしは桟橋の端から、インジとユートの間に身を寄せると、ユートはわたしの体に腕を回してくれました。


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訳者の言い訳と解説

今回から、体裁変えました。
段落の先頭の字下げをやめて、段落ごとに空行入れてます。
使っているブログエディタが仕様変更したようで、字下げできなくなったから。

それはさておき、ついに8章が始まりました。

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