<反地球シリーズ>
ゴルの虜囚
ジョン・ノーマン
9. 小屋(5)
* * * *
歩き続けていると、空に輝く月が見えた。
女たちは落ち着かず、焦れていらいらしているようだ。
一人といわず月を見上げている。
「ヴェルナ」と一人が言う。
「黙れ」
ヴェルナの隊は暗闇と枝の間をかいくぐり、木々や草木を抜けて進み続けた。
「男を見てしまった」別の女がしつこく言う。
「静かにしろ」
「奴隷をつれてくるべきだった」と別の女が焦れている。
「いいや」
「サークルだ。サークルに行かなくては!」と別の女が言った。
ヴェルナは立ち止まり振り返った。
「通り道じゃないか」と別の女が言う。
「お願いだ、ヴェルナ」懇願するような女の声。
ヴェルナは女たちを見つめた。「いいだろう。サークルに立ち寄ろう」
女たちは目に見えて緊張を解いた。
いらいらとヴェルナは振り向き、道を進み続けた。
これがどういうことなのかは、わたしにはわからない。
みじめだった。
ふいに木の枝が腹部を突然打ちつけたので、悲鳴を上げた。
巧みに綱を持つ女は憤怒の叫びを上げ、
手首をひねりわたしの足元側から首が絞まるようにした。
そして足で首から数インチのところの綱を押さえ、
わたしを地面に押さえつけて首が絞まるようににした。
それから綱の空いている側で背中を5回ぶった。
「静かにしろ、カジュラ!」
わたしは立ち上がり、歩き続けた。
また枝が体を打ち付けても、悲鳴は上げなかった。
足からは血が流れ、体は打たれ、引っかき傷ができた。
誇り高く、自由の身で、危険で、勇敢な女たち。
自立し、優れていて、恐れを知らず、計略に富み、激しい猫のような、
ゴルの北の森の女豹族(パンサー・ガールズ)にあっては、
わたしは何者でもない。
彼女たちのすばやい身のこなし、美しさと傲慢さ。
ヴェルナのような。
彼女たちは武装して、自分自身を守ることができて、男は必要ない。
そう望むのならば男を奴隷にし、気に入らなかったり飽きたりしたなら、売る。
ナイフを持って戦うこともできるし、
巨大な森の獣道も木々のことも知っている。
何も恐れない。
何も必要とはしていない。
この女たちはわたしとは全然違うんだ。
強くて、恐れを知らない。わたしはか弱く、怯えている。
性別か人種か、彼女たちはわたしより優れているように感じた。
こんな女たちの中にあっては、
わたしは彼女たちが一番さげすむべき単なるカジュラという、
嘲弄の対象以外の何者でもありえない。
そしてこの女たちの中にあっては、
彼女たちの性別が持つ荘厳な美しさを侮辱するものとして軽蔑される、
繋がれて引かれる単なるカジュラなのだと感じた。
「さっさと歩け、カジュラ!」 わたしの綱を持つ女が叱ってきた。
「はい、ご主人様(ミストレス)・・・・・・」
女が笑う。
わたしは束縛された奴隷として、夜の森を抜けて引かれて行った。
ヴェルナは男がいると言った。わたしは買われたのだと。
わたしはわたしのご主人様の元へ、女たちに運ばれてゆく。
ある女は、この厳しい世界で、ただ商品になるしかないのに。
涙が流れた。